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1.5. 水産業と漁業従事者の減少も危険ゾーンへ

 日本は世界一の漁業国から、いつの間にか世界7位に転落していました。「我が国水産業の現状と課題」に日本と世界の漁業生産量の推移の対比がありましたので、次ページの図1—13、図1—14に引用しました。
 この対比によれば、世界は1984年からの30年間で227.4%と2倍以上の漁業生産量に増えていますが、同期間の日本は、1984年1,282万トンから30年後には469万トンと4割以下に低下しました。

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 このように漁獲量が1980年の36.6%に減少し、漁業の面でも日本は食料の減少に直面しています。農林水産省はその原因として何も記していませんが、漁獲環境の変化と少子化が影響していることは間違いないと思われます。

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 図1—15によれば、水産業に従事している人は2018年時点で15万2千人であり、24歳以下の若者は5千人で3.28%です。水産業から若者が逃げ出しており、42年後の2065年を待たずに、水産業界では従業者の減少と産出高の大幅低下がすでに進んでいました。これは少子化の影響と共に、若者にとって日本の漁業は魅力のない仕事になっているためであると思われます。
 日本の漁獲量が6割も減るまで水産業を放置してきたのは、誰の責任でしょうか。日本の政治家はこの事態を認識しているのでしょうか。政府は何ができるのでしょうか。水産業でも24歳以下の若者がほとんど居なくなっているのは、30年前からの少子化を阻止できなかったためだと思います。このままでは水産業も衰亡へ向かって行きます。心配です。
 図1—16は日本の漁獲量が6割以上も減った穴埋めとして国別の水産物の輸入金額で、総輸入額は1兆4648億円です。日本国内の水産物生産高は1兆5,579億円です。日本国内の全漁業関係者の生産額を100とすれば、輸入水産物の金額は94.0です。水産物は国内生産高にほぼ匹敵する金額が輸入されています。

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 図1—16では意外なことに中国からの水産品の輸入金額が一番多いので、中国からの食料品の輸入品目を調べると、図1-17の通りです。

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 以上に見たように、少子化は農産物と水産物の生産高を大きく減らし、その結果として日本人の食料はアメリカと中国に大きく依存している実態が解かりました。言い換えると、日本はアメリカと中国に食料の面から生殺与奪の権を握られています。
 その上この状態は、アメリカと中国の人々と一部の輸入商社を豊かにして、日本全部の農家と漁師が貧乏になっているのです。
 なぜ日本の水産業界はこれほど落ちぶれたのでしょうか。そのヒントは最大輸入先が中国であることです。中国の安価な水産品などを仕入れて日本国内で安く販売して利益を得る業者が増えたことだと思います。その背景は安い食べ物を求める日本の消費者の存在があります。年収が低いので食事代を切り詰めないと生活できない多くの人たちの存在が、安い中国産の魚介類が日本市場を占拠することになったのです。
 最近のニュースで、中国から仕入れたハマグリを一旦日本の海岸に放ち、1週間ほどで回収して、その海岸の産物として日本国内で販売していた事例がありました。また、聞いた話ですが、中国産のフグを日本の有名なフグの産地へ輸入して、そこで一定期間日本の海水に浸らせ、その地で獲れたフグとして出荷しているとのことです。これも安いフグを求める日本の顧客と一部商社などがさせたと言えます。すなわち失われた30年の停滞と労働者の低賃金が、中国の安い水産品の輸入を促し、これが農漁村の収入減となり、若者が逃げ出し、さらに老齢化して農村と漁村が破局に向かっていると思われます。
 それでは日本の水産業は復活の望みは無いのでしょうか。復活は可能だと思います。そのヒントは、「図1—13 世界の漁業生産量の推移」に於いて世界の水産物の生産が増えている理由と「図1—14日本の漁業生産量の推移」における生産量の減少している理由を比較してみれば、答えが出てきます。世界の水産業では養殖業の生産量が急増しています。一方、日本の水産業の生産量は沖合漁業が大きく減少し、遠洋漁業と沿岸漁業も生産量が減っています。唯一養殖業の生産量は横ばいです。日本で遠洋漁業・沖合漁業・沿岸漁業の生産量が減ったのは船に乗って漁業する若者が居なくなったためであると推測されます。
 世界では養殖業が発展して、日本で養殖業が発展できないことはあり得ないと思います。日本は29,751kmの長い海岸線と6,852の島嶼があり、魚の養殖に適した比較的静かな入江などが随所にあるからです。
 そこで農林水産省の政策を調べてみると、「養殖業成長産業化総合戦略」がありました。令和3年7月の策定です。この総合戦略は多岐にわたり詳細に記され、見識が高く実に素晴らしい内容です。この戦略が確実に実行されれば、日本の水産業は間違いなく復活し、中国やアメリカの水産物に依存している現状から脱出し、輸出もできると思われます。
 「養殖業成長産業化総合戦略」を確実に実行するために、政治家・政府の高官・濃林水産省・財務省は必要な資金と優秀な人材の投入と各種支援をして下さるようお願いします。近代的な付加価値の高い水産業が復活すれば若者も戻ってくると思います。