10.13.超高齢化社会を乗り切るために
2023年現在は少子高齢化が急激に進む過程にあり、若年者が少なく高齢者が多い超高齢化社会へと向かっています。図10—9は『少子化白書』のデータに従って筆者が作ったものです。
この図10—9を見ると、65歳以上の人の比率は1950年には4.9%でしたが、2015年に28.5%まで高まり、2065年には38.1%になると推計されています。
現実は出生数の減少が『少子化白書』の推計より10年以上も前倒しで進んでいることを考えると、この65歳以上の高齢者の比率はもっと高まると思われます。
超高齢化社会の到来により、すでに本書で記したように次のような困難が予測されます。
① 農業従事者の壊滅的な減少と老齢化により、日本の食料生産が減少し、輸入に依存する比率が高まり、ひとたび世界的な波乱が生じると、日本は輸入が途絶え、食料不足となり、飢餓に瀕する危険性がある。
② 水産業についても農業と同じことが心配される。
③ 人口減少と若者流出による過疎化地域が広がり、バスや電車が廃絶され、商店や病院も無くなり、学校は統廃合されて小中学生の遠隔通学が避けられず、高校生・大学生の流出となり、多くの離島や山村が存続の危機に晒される。
④ 人口減少と高齢化は消費を減少させ、産業規模の縮小となり日本経済を衰退させ、多くの企業と人が海外に活路を求め、国内産業がさらに空洞化する。
⑤ 企業の海外展開は日本国内の空洞化だけでなく、貧富の差を拡大して格差社会をつくる。
⑥ 格差社会で生まれた多数の貧困者の存在は、結婚も出産も出来ないので、さらに少子化を加速する。
⑦ 少子化による若者の減少は自衛隊への応募者を減らし、日本の防衛力を弱体化する恐れがある。同時に日本の防衛体制を兵士が死なない防御武器体系に革新する必要が生じているが、人口減少による人材・資金不足のため防衛体制の整備と兵器の開発生産ができなくなる。
⑧ 少子化と経済の衰退と富の偏在は、研究機関への人材と資金の不足をもたらし、新科学技術開発や重要論文の減少となり、日本が世界各国に比して落ちこぼれる要因となっている。
⑨ 長寿命化により高齢者が年々増大しているので、高齢者向けの社会保障費用が年々増大しており、いつまでこの社会保障費の増大に耐えうるか分からない。
⑩ 60歳で定年退職した優秀な人材は韓国や中国などの企業に高給で誘われ日本のノウハウや技術が海外へ流出し、日本の貴重な技術・ノウハウ・知識などが空洞化し、低下している。
⑪ 年々増大する社会保障費用に対応する歳入の不足(税収不足)を補うために、国債が発行され、その残高が国家予算の10倍にもなろうとしており、次世代への付けとなっており、問題を先送りしており、いずれ国家財政が破綻する恐れがある。
⑫ 少子高齢化は労働人口を減らし高齢人口比率を増やすので、労働人口1人当たりの扶養人員(若年者と高齢者)が1.2人となることが予測され、この時点で日本は立ち行かなくなる恐れがある。
⑬ 超高齢化社会は少なくとも今後40年以上は継続すると想定されるが、どのように対処すべきか、日本国民にその思いが共有されていない。
私たちは、この超高齢化社会を乗り切らなくてはなりません。しかし、65歳以上の人口の比率が約40%にもなる超高齢化社会を乗り切る妙案は無く、誰もが考え得る当たり前の方法を確実に実行するだけです。
その超高齢化社会を克服する当たり前な一つの方法は、高齢者が扶養され支援される側から、可能な限り働いて扶養し支援する側に立って超高齢化社会の克服に参加して人生を送ることです。
このためには、働く人の年齢の制限を無くして、高齢者であっても個人の健康・体力・能力・意欲・経験に応じて自由に働いて社会参加できる社会システムを構築すること必要です。具体的には定年制を禁止し、一定の年齢になったら給与を半分や三分の一にして非正規雇用形態とすることも禁止し、働く意欲のある人は本人の希望する勤務形態で、本人の可能な年齢まで働ける社会にすることが大切です。1日8時間の労働時間の規定なども撤廃し、長時間勤務を制限する方が良いと思います。この様にすることで、高齢者も生き生きと人生を送れ、同時に働く人の減少を補い、扶養され支援される人の数を減らし、超高齢化社会を乗り切る一助となるのではないでしょうか。
さらに女性が家に籠っていないで、健康で働ける人は社会に出て働いてもらえる社会環境を整えることです。このため現在は女性に大きな負担がかかっている子育てや家事から解放するために、育児所や保育園・幼稚園をもっと充実し、長時間保育や場合によっては寄宿も可能にして、無償化するなども必要であると思います。乳幼児の時から、育児所や保育園で育てば、周囲に同年輩の人が居て、人と交わる訓練や習慣が自然に行われ、この結果としてニートや引き籠りの人が少なくなることが期待できるのではないでしょうか。
合わせて男性が育児に当たれるように、育児休暇を100%有給にして、長時間残業を無くす必要があります。
そして元気な高齢女性も、余暇を楽しみながら男性と同様に個人の健康・体力・能力・意欲・経験に応じて自由に働いて社会参加できるようにすることです。
また、AI化・ロボット化・無人店舗化・ドローンを活用した郵便配達や宅配便など現在試みられている事柄の実用化など、少ない人で運用できる社会運用システムの開発・普及も大切であり、捺印制度など紙や人手を要する制度の改廃も研究され実行される必要があると思います。これらの新社会システムは日本が世界に先駆けて開発実用化することで、そのシステムをこれから人口減少が進む国へ売れる可能性もあると思います。
また、少子高齢化社会が今後100年前後は続くと思われるので、日本を守る自衛官の定年制を見直すべきではないでしょうか。今後は兵士の死傷を可能な限り少なくする防衛・兵器体系を構築する必要がり、すでにウクライナで実証されているように、無人兵器による戦いが中心となり、遠隔地から無人での攻防が行われるので、若い体力は大切ですが勝負の中心ではなく、経験と知識・判断力が大切になります。そこで将官クラスの定年60歳、現場で活躍する曹クラスの定年53歳、「任期制自衛官」の20歳代~30歳代半ばでの退職制度を全面的に見直し、経験を積んだ将官や兵士を大切にする制度へと転換が求められていると思います。
農業・牧畜・水産業に関しても、従来の高齢化した個人経営から、新しい研究成果を取り入れた栽培や養殖や育成方式、集約化、生産販売一体化体系の構築、会社経営体系へと移行し、少ない人員で多くの食料を産出できる体系が求められていると思います。
今後50年以上先を見た時、山村や離島での過疎化・高齢化は更に進み、廃校・廃村や無人島などが各地に現出すると思われます。しかし、このような地域は風光明媚で山紫水明の地が多いと思われるので、観光地・休暇村・保養地・別荘地などとして再活用できないでしょうか。
学校が無くなった子供たちの為には、高等学校までの教育費が無償化され、必要な地域には寄宿舎付きの小学校・中学校・高等学校が創られることを期待します。
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