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10.14.静止人口社会へ向けて

 日本には、慶長5年(1600年)から江戸時代の享保6年(1721年)までの121年間に2.55倍の急激な人口増がありました。この人口の増加は大きな社会的変化を必然的に伴いますが、この変化に人々が順応して静止人口社会として安定するまでに、121年が必要でした。その後、江戸時代の後半は約3,200万人の安定した静止人口社会が125年間続き、この間に色々な江戸文化が花開いたのです。
 2023年の今、日本は急激に少子化・超高齢化社会へ向かっており、これを克服して、静止人口社会へと収斂するための施策を、現在時点で講じる必要がありますが、その成果は80~100年前後の日本の姿に大きく影響するのです。
 すでに「10.12.今後の出生数の予測」の項で述べたように出生数は

 2022年:799,728人(実績)
 2040年:638,595人(予測)

 となっています。この予測は2040年の合計特殊出生率が2022年と同一と仮定した場合のものです。

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 少子化の影響だけではなく、図10—10に見るように2021年時点で多くの高齢者が存在し、この高齢の人たちがこれから年々死亡してゆくので、日本の人口は減少し続けます。
 この人口減少が止まり、死亡数と出生数がほぼ同一になる静止人口社会は実現できるのでしようか。もし静止人口社会を実現できたと仮定しても、その時の日本の人口は誰も正確な推計はし難いと思います。なぜなら、今後の合計特殊出生率の変化を予測出来ず、したがって出生数の変化を正確に予測できず、死亡数も予測しがたく、日本の人口が何時、何人で平衡するのか誰にも分からないからです。
でも幾つかの仮定をすれば概略的な試算ができますので、以下にそれを試みます。
 たとえば、図10—10で人口のピークである72歳の人は2,053,000人いて、本書の図7-2、図7-3の生命表からこの人たちの生存数が50%まで減少するのは男性で85歳、女性で90歳ごろです。すなわち2021年に72歳の男性の50%は13年(85歳-72歳)後までに、女性は18年(90歳-72歳)後までに半数が亡くなっています。このように多くの高齢者が毎年死亡するので、人口が急激に減少するのです。一例を示せば、2022年の人口変化は

 出生数:  799,728人
 死亡数:1,582,033人
 減少数:  782,305人

となっています。これは2022年が特別ではなく、毎年このような人口減少が進んでおり、これが現在の日本の実態です。このように死亡数が出生数よりも多い年が続く間は日本の人口減少が続きます。
 今後の出生数が2040年には63.8万人へと減少する可能性がありますが、少子化対策が功を奏して今後は毎年80万人が生れると仮定すると、出生数と死亡数がほぼ同一になるのは、図10—10の0歳の83.2万人が寿命を終える時です。その時期は本書「図7—2、7—3 日本人の生命表の推移」から男性の50%が死亡する85歳、女性90歳になり、平均88歳の時で、2021年の88年後になると想定します。すなわち80万人が生れて80万人が死亡し静止人口となるのです。
 そうすると日本の人口減少は今後約88年間は続くことになります。もちろんこれは多くの仮定の上に成り立っているので正確ではありませんが、ひとつの目安にはなると思います。
 言い換えれば、日本が静止人口社会への入り口に到達するのは、少子化対策が功を奏して80万人が今後毎年生まれると仮定して、約88年後である可能性が高いので、これは絶対に正しいと言えないので、静止人口社会が始まる可能性があるのはおよそ80~100年後と考えて良いと思います。
 それでは、静止人口社会が実現される仮定した約80~100後の日本の人口は何人でしょうか。毎年毎年80万人が88歳まで生きていたと仮定したのですから、その時の静止人口は

 80万人×88年=7,040万人

となります。もし現在の少子化対策が効果を上げずに合計特殊出生率が2022年と同じであったとすれば、出産可能期の女性が2040年まで年々減少してしまっているので、その時の出生予測人数は63万人になります。この出生数がその後毎年継続すすると仮定すれば、88年後の静止人口は

 63万人×88年=5,544万人

です。
 日本国民が1億2,500万人から80~100年後に5,544万人になった日本はどのような状態になるのでしょうか。これは仮定の話ですが、全くあり得ない架空の話ではなく、私たちの孫や曾孫の時代には、到来するかも知れないのです。人口が5,500万人になった時の日本を想像してみて下さい。
 日本が5,500万人の人口になれば、食料とエネルギーの消費とが半分以下になり地球環境にとっては好ましいことですが、工鉱業・商業・サービス業・農業・水産業・科学研究・技術開発・国土防衛・教育・交通運輸・観光・スポーツなどあらゆる面で人材が不足し、世界から落ちこぼれた国家に成っているのでしょうか。
 日本の敗戦からすでに78年経過しています。80~100年は想像を絶する遠い未来ではありません。
このように、現在の少子化対策の結果としての今後の出生数が80~100年後の日本の人口を決定するのです。人口は国力の一つの側面です。少子化対策の結果は将来の日本の国力を決める重要な事項であると言えます。
 実際には60万人や80万人の出生数が一定のまま80年も100年間も続くことはあり得ず、その時々の世界情勢や経済情勢・政治情勢によって影響され、日本人の知恵が発揮され、必ず良い方向に変化する力が働くと思いますので、いたずらに心配しない方が良いと思います。
 しかし、今の出生数の減少傾向を止めないと、日本の将来が危ないことは確実なので、少子化対策の重要性は変わりません。