2.10.非正規雇用者への差別待遇の禁止
令和3年(2021年)4月12日の「政府広報オンライン」に「2021年4月1日からパートタイム・有期雇用労働法が中小企業も適用に」との記事が掲載されています。
「正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差が禁止されます!」との見出しで、その要点を分かりやすく紹介されていますので、図2—22として次に引用します。
なお、図2—22のパンフレットの基礎になった「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」の条文を読んで見ると次の五つの事項が問題であると思います。「正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差が禁止されます!」との見出しで、その要点を分かりやすく紹介されていますので、図2—22として次に引用します。
その五つの問題の第一は
(適用除外)
第二十九条 この法律は、国家公務員及び地方公務員並びに船員職業安定法(昭和二十三年法律第百三十号)第六条第一項に規定する船員については、適用しない。
と規定されていることです。したがって、地方公務員の内、非正規雇用者694,473人が適応除外となります。また、2017年度の国家公務員の中の非正規雇用者78,015人も適用除外です。すなわち、国家公務員と地方公務員を合わせた772,488人がこの法律から除外されます。
その結果、図2—23に示す年収の差別待遇が77万人の公務員に関して継続され、非正規雇用公務員の平均年収は、男性190万円、女性137万円となっています。
第二の問題はこの法律の罰則の規定が緩く曖昧なことです。
(過料)
第三十条 第十八条第一項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。
参考:第十八条第1項 厚生労働大臣は、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等を図るため必要があると認めるときは、短時間・有期雇用労働者を雇用する事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。
この第三十条は、事業主から労働省への報告に関して定めた第十八条の違反に関するものであり、報告が無く或いは虚偽の報告の場合の過料(罰金)の規定です。しかし、報告の内容が虚偽か否かを調べる権限や方法は記されていません。事業主は虚偽でも、報告をしておけば、内部密告でもない限り過料(罰金)を逃れることができます。官僚などによる強制捜査権は規定されていません。
また、過料(罰金)の金額が少な過ぎます。たとえば一人の正規職員を採用すれば600万円以上の給与を年収として支払わなければなりません。非正規の人の場合は約150~200万円ですみます。非正規の人を採用しておいて、600万円を支払ったと報告すれば、この差額の400万円を支払わずにすみます。もしこのことが判明して罰金を科されても20万円以下です。お金のことだけ考えれば、虚偽の報告をする方がはるかに有利です。誰が正直に報告するのでしょうか。
また、次も問題です。
また、過料(罰金)の金額が少な過ぎます。たとえば一人の正規職員を採用すれば600万円以上の給与を年収として支払わなければなりません。非正規の人の場合は約150~200万円ですみます。非正規の人を採用しておいて、600万円を支払ったと報告すれば、この差額の400万円を支払わずにすみます。もしこのことが判明して罰金を科されても20万円以下です。お金のことだけ考えれば、虚偽の報告をする方がはるかに有利です。誰が正直に報告するのでしょうか。
また、次も問題です。
第三十一条 第六条第一項の規定に違反した者は、十万円以下の過料に処する。
参考:第六条第一項 事業主は、短時間・有期雇用労働者を雇い入れたときは、速やかに、当該短時間・有期雇用労働者に対して、労働条件に関する事項のうち労働基準法第十五条第一項に規定する厚生労働省令で定める事項以外のものであって厚生労働省令で定めるものを文書の交付その他厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
この第三十一条は、第六条に従って、労働条件を労働者に文書で明示することに違反した場合の過料を定めていますが、事業主は違反する必然性はありませんが、罰金10万円では少なすぎます。
この法律の罰金は20万円以下であり、虚偽の報告をした場合の利益に比して余りにも少なすぎると思われます。たとえば、10人の非正規労働者を年収200万円で雇い、政府(厚生労働省)への報告は、年収600万円の正社員と同じ待遇をしたと報告すれば、4,000万円の隠れた利益を手にすることができます。もしこれが虚偽であることが判明しても、20万円以下の罰金です。
第三の問題は政府機関あるいは第三者によるチェック機能が規定されていないことです。第三者あるは政府機関の人が随時に予告なしで立入検査できるようにしておけば、事業主は事実を正直に記録する他なくなります。虚偽の報告は出来なくなります。しかし、この法律は事業主の性善説を信じていると思われます。虚偽の報告をしても内部密告あるいは非正規労働者からの訴えがない限り問題は隠れたままです。発覚の恐れがほとんど無いので、事業主は安心して勝手な報告をすることがでます。
第四の問題は、賃金の決定の仕方です。法律では賃金の決定を次のように規定しています。
(賃金)
第十条 事業主は、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、その雇用する短時間・有期雇用労働者(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者を除く。次条第二項及び第十二条において同じ。)の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を勘案し、その賃金(通勤手当その他の厚生労働省令で定めるものを除く。)を決定するように努めるものとする。
この規定は一見常識的であり、何ら問題が無いように見えます。しかし、これから雇う人の「職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項」如何にして勘案するのでしょうか。雇った後に成果・意欲・能力・などが分かってきても、一度決めた賃金はなかなか上げられないのではないでしょうか。
そして第五の一番危険なのは次の第八条の規定です。
そして第五の一番危険なのは次の第八条の規定です。
(不合理な待遇の禁止)
第八条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
この規定は、短時間・有期雇用労働者(非正規雇用労働者)を正社員と差別した低い待遇にするための隠れた武器だと思われます。「すべての業務は正社員が責任を持っており、短時間・有期雇用労働者の職務の内容は単に事務をこなすだけで、責任は無い」と事業主が決めれば、短時間・有期雇用労働者に対して正社員の3分の1や4分の1の低賃金にすることが正当化されます。見方によっては、如何様にもその責任の大きさが変化して判断される「責任の程度」との規定は、厳格な規定をすべき法律として相応しくないと思います。
この法律は制定から2023年現在すでに30年が経過しています。令和2年6月1日から施行しても、3年経過していますが、まだ通常の労働者(正規雇用労働者)と非正規雇用労働者との不条理な差別は解消されていません。
これらの事を考えると、短時間・有期雇用労働者への不当な差別を禁止するための「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」は、逆に酷い差別を正当化するための法律であると言えるかもしれません。
この不当な差別待遇を無くす責務は誰にあるのでしょうか。その第一は与野党の政治家・国会議員です。政治家は国民の間の不当な差別を解消するのも重要な務めです。しかし短時間・有期雇用労働者への不当な差別の実態は誰も取り上げていません。短時間・有期雇用労働者は組織化されずに誰も彼等(彼女ら)を代表して発言し彼らを守る組織や団体が有りません。したがって政治家の多くはこの問題の解決に取り組んでも選挙での票にならないから、誰もこの問題に取り組む意義を見出せないのです。短時間・有期雇用労働者への不当な差別はこのようにして、長期間放置されてきました。
しかし、誰からも見放されている「短時間労働者及び有期雇用労働者」(非正規雇用労働者)のことが社会問題であるとの本書の訴えに気付かれた政治家の方々の本問題への取り組みをお願いします。
この不条理な差別解消のために「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」などの関連法規の改定を国会で議決をして政府に提議すべきです。政府の中では、これらの法律の運用に当たっている厚生労働省が差別の生じ得ないように誠実に、上に述べた5点の問題を含んで法令を改定する責務があります。
この法律は制定から2023年現在すでに30年が経過しています。令和2年6月1日から施行しても、3年経過していますが、まだ通常の労働者(正規雇用労働者)と非正規雇用労働者との不条理な差別は解消されていません。
これらの事を考えると、短時間・有期雇用労働者への不当な差別を禁止するための「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」は、逆に酷い差別を正当化するための法律であると言えるかもしれません。
この不当な差別待遇を無くす責務は誰にあるのでしょうか。その第一は与野党の政治家・国会議員です。政治家は国民の間の不当な差別を解消するのも重要な務めです。しかし短時間・有期雇用労働者への不当な差別の実態は誰も取り上げていません。短時間・有期雇用労働者は組織化されずに誰も彼等(彼女ら)を代表して発言し彼らを守る組織や団体が有りません。したがって政治家の多くはこの問題の解決に取り組んでも選挙での票にならないから、誰もこの問題に取り組む意義を見出せないのです。短時間・有期雇用労働者への不当な差別はこのようにして、長期間放置されてきました。
しかし、誰からも見放されている「短時間労働者及び有期雇用労働者」(非正規雇用労働者)のことが社会問題であるとの本書の訴えに気付かれた政治家の方々の本問題への取り組みをお願いします。
この不条理な差別解消のために「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」などの関連法規の改定を国会で議決をして政府に提議すべきです。政府の中では、これらの法律の運用に当たっている厚生労働省が差別の生じ得ないように誠実に、上に述べた5点の問題を含んで法令を改定する責務があります。
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