T05-05

5.5.離婚を減少させることは可能か

 離婚を減少させるために第一に大切なことは、非正規雇用労働者の生活不安を解消させることです。このことは図5—1 離婚数の年次推移のグラフが雄弁に語っています。1990年代に急激に離婚数が増えたのは、それまで総中流階級として安心して生活していた人たちが、リストラにより会社を追われ、生活不安定になり、貧困層に追いやられ結婚生活を維持できなくなったからです。そして2002年以降は離婚数が高止まりしているのは、会社を追われた人たちが非正規雇用労働者として低賃金になり、家計が苦しく、安定した家庭を維持出来ずに離婚に至ったのだと思われます。
 この非正規雇用の問題はすでに「2.結婚できない非正規従業員」の所で記しました。
 次は、その他の理由で離婚に影響している要因について、考えてみます。結婚と同様に離婚も個人の自由意思により決定され、誰からも強制されるものではありません。そして、離婚の原因と経緯は千差万別であり、一律にその減少策を論じることはできないと思われます。
 日本社会はまだ欧米のように、簡単に離婚し、また簡単に再婚相手が見つかる柔軟性を持っていないと思われます。欧米の人たちは、再婚する場合も子供の有無をあまり気にしていないようです。これに対して日本では、子供を持って離婚した場合、再婚相手がなかなか見つからないようです。イチバツと言う言葉があるように、子ずれの離婚者の再婚は相手の親や周辺から反対され、本人も気後れしている感じがします。
 では、日本では離婚を減少させることは絶望的なのでしょうか。思いつく唯一の方法は、結婚について考え直してみることです。
 結婚はそれまで他人であった一組の男女が協力して一つの家庭を作り、子供を生み育て、その国や地域や種族が存続してきた人類始まって以来の制度であり、現在まで続いている最も古い社会制度の一つです。
 結婚を継続させる本質は男女が協力し合うことにあると思われます。協力し合うためにはお互いに相手が喜ぶことを考えて行動することです。お互いが敬い、尊重し、協力し、助け合い、感謝し、許し合い、認め合い、それがお互いの喜びとなる関係が結婚の本質だと思います。このような関係が崩れて結婚している相手を許せなくなった時、離婚が行われるのだと思います。
 近年来、個人主義が広まり、個人の意義と価値を重視し、個人の権利や自由を尊重する考え方が広く認められてきました。本来「個人の意義と価値と権利や自由を尊重する」ことは、自分の権利や自由を主張することと同等に結婚相手の権利や自由も尊重しなければなりません。この意味での個人主義は大切な考え方です。
 しかし個人主義を曲解して、他人のことなど考えずに、自分のことだけのために行動する利己主義的な考え方の人が、多くなってしまったのではないでしょうか。
従来から一般的に離婚の理由とされる事項を、挙げてみると次のようになります。

 ① 性格が合わない・・・・・・・・:夫62%、妻39
 ② 異性関係。相手が浮気をした・・:夫14%、妻17%
 ③ 家庭内で相手に暴力を振るう・・:夫 8%、妻22%
 ④ 生活費を渡さない・・・・・・・:夫 4%、妻29%
 ⑤ 収入を自分勝手に使い浪費する・:夫12%、妻10%
 ⑥ 精神的に虐待する・・・・・・・:夫20%、妻25%
 ⑦ 家族と折り合いが悪い・・・・・:夫14%、妻7%
 ⑧ 性的不調和・・・・・・・・・・:夫13%、妻7%
 ⑨ 麻雀や飲み屋やカラオケなどで夜遅くまで遊んでいる
 ⑩ 結婚相手の親や兄弟姉妹が虐める(結婚相手は保護してくれない)
 ⑪ 競馬やパチンコ・競輪・ボートなどの賭け事に嵌って家を顧みない
 ⑫ 仕事が忙しすぎて家や自分を顧みない
 ⑬ 相手が自分を認めない
 ⑭ 趣味が異なる
 ⑮ 結婚相手がケチで何もしてくれない
 ⑯ 結婚相手が我儘で自分勝手である
 ⑰ 自分の意志を相手に押しつける
 ⑱ 相手の感情や気分が不安定で落ち着けない
 ⑲ 酒乱など酒癖が悪く時々常軌を逸して困る
 ⑳ 人情味が無く冷酷である

 上の夫の%数は夫が妻に対して離婚理由として挙げたもので、妻の%数は妻が夫に対して離婚理由として挙げたものです。「裁判所司法統計 婚姻関係事件数 -申立ての動機別申立人別 -全家庭裁判所 」によるものをWEBサイトから引用しました。
 実際の離婚理由は、離婚した夫婦の数だけ有ると思われます。そして上に挙げた離婚の理由となった事項はその一例であり、夫婦の何れか一方或いは双方が自分勝手な利己主義的な行動を続けた結果であると言えます。言い換えると、離婚は当事者たちが相手を顧みず自分の好き勝手な行動をする利己主義から抜け切れていない結果ではないでしょうか。
 本来、夫は妻の喜ぶことをし、妻は夫の喜ぶことをすることでお互いに相手に対して愛情も深まり、感謝の気持ちも大きくなります。相手からの感謝の気持ちはまた自分にとっての深い満足と喜びをもたらします。これが本来の夫婦の在るべき姿だと思います。
 しかし上の離婚理由を見ると、その夫婦は自分勝手で、相手を自分と同様に大切にする気持ちや行為が見られません。すなわち、利己主義に固まっているのです。
 離婚理由で「性格の不一致」を一番多く挙げていますが、人は顔や姿形が全て異なるように、性格も1人として同じではなく全て異なり、一致しないのが当たり前です。結婚はその異なる性格をお互いに認めて受け入れ、敬い、慈しみ、尊重するところから始まると思います。
 結婚はもともと他人であった者同士が一緒に生活することですから、
 「健(すこ)やかなる時も 病める時も、喜びの時も 悲しみの時も、富める時も 貧しい時も、互に愛し 敬い 慰め合い 共に助け合い、その命ある限り真心を尽くす」
 ことが結婚を継続することにとって大切になるのです。そして離婚は、この結婚にとって大切な相手を想う気持ちが忘却の彼方へ押しやられている結果であると思われます。利己主義の勝利により離婚が行なわれるのです。

 この利己主義的な行動を無くすことが離婚を減らすことに有効だと思いますが、それは可能でしょうか。