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6.6.出産できる年収

 図6—7を見ると、出産適齢期の34歳以下の妻は、子育てや教育にお金がかかり、そのお金が無くて出産を控えていることが分ります。
 「 リセマム (resemom.jp)」によれば、SMBCコンシューマーファイナンスが20~40代に行った金銭感覚の意識調査によると、出産・子育てを前向きに考える割合が50%を超えるのは、世帯年収が600万円ある場合であることが明らかになりました。図6—8はReseMomからの引用です。

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 図6—8から、出産と子育てを促進するためには、これから出産して子育てをする家庭の年収を600万円以上にする政策がどうしても必要になることが解かります。年収600万円でも、出産・子育てしようと思う人達は50%でしかありません。図6—8の調査は2019年12月にインターネットで行われた、男女2,000名の有効回答の結果です。
 それでは、実際に日本の家庭の所得金額はどいうなっているのか、厚生労働省が平成21年に調査したデータを図6—9として示します。
 図6—9によれば、年収400万円以下の家庭が全体の46.5%を占めています。500万円以下の世帯は56.5%でこの人たちがお金を心配して出産を躊躇しているのです。日本の全世帯の56.5%は出産するには所得が少なすぎると思っているのです。出産・子育てしようと思える600万円以上の世帯の比率は43.5%でしかありあせん。
 出産を促し、少子化を防ぐには、500万円以下の年収を、600万円を超えるように引き上げる方策が求められているのです。特に結婚も出産も出来ない300万円以下の所得の世帯が33.2%を占め、少子化を促進しています。

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 図6—9によれば年収500万円以下の世帯は56.5%を占めていることが計算できるので、日本の全世帯5,507万の半数近い3,111万世帯の年収を600万円以上にするには、どうしたら良いのでしょうか。
 図6—9のように年収が低い人たちの多くは非正規雇用労働者の世帯です。まず、この差別されている非正規雇用労働者を正社員と同等の年収に引き上げることが必要です。しかし、誰がどうしたら非正規雇用労働者の年収を正社員と同等にすることができるのでしょうか。建前としては、日本の法律では同一労働同一賃金の原則が守られることになっています。しかし、現実は大きな待遇差別があるようです。この不当な差別を無くする第一の責務は非正規労働者を雇用している企業と地方自治体などの組織体にあります。しかし非正規雇用労働者の賃金を引き上げることは企業や組織体にとって経営の負担増になるので自発的に行われることは期待できません。
 第二の責務は労働組合にあります。現在の多くの労働組合は正社員・職員だけで構成され、同じ企業・組織内の非正規雇用労働者を除外し、彼らへの差別待遇については目をつぶっています。労働組合は非正規雇用労働者を組織内に取り込む方法を考え、その待遇改善について発言すべきではないでしょうか。しかしこれも労働組合にとっては、雇用形態の異なる人を組織内に取り込むリスクを犯し、かつ経営者側との馴れ合いの関係を壊す恐れがあり、これは組合の存立基礎を脅かし、その上労働組合は組合員の正社員の地位を守っているとの大義名分が無くなり、労働組合には何一つ取組む意義がありません。したがって労働組合が非正規雇用者を組織内に取り込み待遇改善することは期待出来ないと思われます。
 第三の責務は不当な差別待遇を許している法律の抜け穴を塞ぐべき立場の方々です。この方々には法律の抜け穴が分かっていつものと推測されます。しかし、この人たちにはこの抜け穴を塞ぐために危険を冒しても自分たちに何のメリットもありませんので、積極的に行動を起こすことは期待し難いと思われます。
 第四の最後の責務は国民を等しく守る立場の与野党の政治家・国会議員です。差別待遇を許している法律の抜け穴を調べ、それを塞ぐ努力をすべきです。政治家の方々に尽力してもらうしか差別待遇と低賃金を救う方法が有りません。
 さらに、非正規雇用労働者に加えて、500万円以下の従業員全体の年収を引き上げることが大切です。この場合には連合などの労働組合の上部組織が働く余地があります。企業は人件費を抑えて内部留保を積み上げていますので、賃金引き上げの余力があります。
 少子化対策として、全世帯の所得引き上げは必須です。