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9.6.海外投資による貧富の差の拡大

 海外投資は日本人の中の貧富の差を拡大します。
 日本銀行が2022年12月19日に発表した資金循環統計に民間非金融法人企業の金融資産(図9—5)と家計の金融資産(図9—6)がありますので、引用しました。これによると、企業に1,200兆円以上、家計に約2,000兆円の資金が蓄積されています。
 日本では図6—9に見るように、年収400万円以下の世帯が全体の46.5%を占めている状態で、この莫大な家計の金融資産は誰が所有しているのでしょうか。
 また、働く人々を低賃金に抑え込んで、企業が1,200兆円以上も貯め込んでお金を眠らせ、大金持ちの人々が2,000兆円も貯め込めば、日本の中に流通するお金がそれだけ少なくなり、消費は沈み、各種税金も減り、景気は低迷し、少子化が進むのは避けられません。

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 一般の国民はお金が無くて結婚も出産もできない人が多いのに、どのようにしてこのような大金が企業と家計に蓄積されたのでしょうか。その重要な要因は企業の投資行動です。日本企業は国内投資をせずに海外へ多額の投資をしていました。それを図9—7に示します。

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 図9—4に見るように、1996年から2021年までの25年間に261兆円の海外投資をしています。この期間は日本の失われた停滞の30年に相当します。この間に261兆円もの莫大な資金が日本から海外へ投じられて、国内に出回る資金が減り、国内の仕事も海外へ移って減ったのです。
 その結果、日本国内は流通するお金が少なくなった分だけ日本人は職を失い貧乏になり、莫大なお金が投じられている海外の国では、多くの人が職を得て、潤沢にお金が流通し、国と人々が豊かになりました。例えば日本企業が盛んに投資した中国は、図7—5示したように1人当たりGDPがこの間に30倍にもなり、人々が豊かになると同時に軍備を増強してアメリカの軍備を凌ごうとしています。
 対外投資には、投資先の国の市場で製品を売る目的の場合と、人件費の安い国で生産して安価な製品を日本へ輸入して利益を得ようとする場合があります。いずれの場合も国内で生産しないので、国内には資金も出回らず、労働者も必要なく、多くの人の就業の機会がありません。
 海外で安く生産した製品を日本へ輸入して利益を得ようとする場合は、日本の労働者は海外の賃金の安い国と対比され、賃金を引き下げ労働者の窮乏化要因になります。「図2—19 各種世帯の1世帯当たり平均所得金額の年次推移」のように日本の全世帯の所得が減少しているのはこの影響もあります。
 一方、企業と特定の個人は海外で稼いだ巨額のお金を死蔵して日本国内に投資をしないので流通せず、そのお金が日本全体を豊かにする働きをさせていないのです。このようにして、企業と特定の人だけが豊かになり、一般の労働者は賃金の低い東南アジアや中国と対比されて、賃金を引き下げる圧力を受けてきました。海外投資は貧富の差を拡大し、労働者の低賃金化により少子化を促進しました。
 このような日本企業の海外投資行動を野放しにしてきた日本政府に、日本で貧富の差を大きくし、多くの日本人を貧乏にした責任があると思います。そして、政府の政策に関与できる立場の政治家(国会議員を含む)の責任も見逃せないと思います。この30年間、政治家は日本企業の海外投資に関してどのような働きをしたのでしょうか。政治家も政府同様に海外投資を日本企業の国際化のための海外進出と捉えて、むしろ歓迎し促進する雰囲気があったのではないでしょうか。
 ここでは海外投資のマイナス面を記しましたが、日本の海外進出そのものは大切なことです。現在の状態は、企業の海外進出が日本国内にマイナスの影響を及ぼす事態を防ぐ施策の欠如が問題なのです。